行く末は…?  〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


唐突に九州から北上して来た巨大な低気圧は、
日本海を通過中にも成長し、
結果的には台風並みの規模となり。
コンテナトラックを横倒しにさせるほどの突風を従えて、
東日本の各地を豪雨もて急襲した。

 「…なので、マラソン大会は順延だそうで。」
 「いっそのこと、中止にしちゃえばいいんですのに。」

日頃のそれは慎ましやかな彼女しか知らないご学友が聞いたなら、
ギョッとして目を見張ったかも知れぬほど、
やや乱暴な語調でのお言いようを。
白百合様とも聖女様とも称される花の顔容
(かんばせ)の、
そのすべらかな白い頬、
頑是ない子供のように丸々と膨らませつつ、口にした七郎次だったのへ。

 「まあまあ。苦手だからってそこまで言わずとも。」

心境は判るがそこまで怒らないのと、平八が苦笑をし。
むうと膨れたまんま、それでも塗り直したリップを馴染ませるべく、
口許をうにむにと合わせる彼女だったのへ、

 「…………。」
 「…あ、うん。怒っても始まらないよね。」

そおと横合いからお顔を覗き込んで来た久蔵だったのと目が合って。
口数少ない彼女からも“大丈夫?”なんて案じられているのへは、
さすがに…そのくらいでここまで憤懣を抱くなんて、
ちょっと大人げないかもという感慨が押し寄せて来たものだから。

 “さすがさすがvv”

沈黙は金、でしょかねぇなんて、
微笑ましいなと口許をほころばせるひなげしさんだったが、

 …それってこういう意味だっけ?
(う〜ん)

いずれが春蘭秋菊か、
お育ちのいい名士の子女が通うことで有名な、
都内某所のとある女学園にて。
数多通われる御令嬢たちの中でも、
特に目立つ存在として、
生徒たちから絶大な人気を集めている三人娘…ではあるが。
他人の目がないところでは、
学園でご披露している態度とは、微妙に異なる言動を見せもする。
そんなの、どんな聖人君子でも淑女でも、仕方がないことでしょうよと。
お身内だけの場では多少は羽目を外したりもしましょう、
そうそう始終、堅苦しいお顔でばかりいられまい…とかいうよな、
通り一遍な次元の話じゃあなくて。

  限られた人たちにしか事情の通じぬ
  殊更に“内緒”のお顔の話だったりし

嘘も偽りもなくの正真正銘、
まだまだ20年足らずという人生しか歩んでいない、
瑞々しい女子高生…という彼女らであるのだが。
その内面、人格の底には、前世で経た歳月の記憶が居残っており。
しかもしかも、それが選りにも選って、
乱世に生きた雄々しくも頼もしいお侍、
命のやり取りさえこなしたところの、
“もののふ”のそれだったものだから。
お嬢様でも姫でもなく、女御ですらなかった者として、
戦乱の世を生き抜いて得た強かさや、
はたまた、世の中とはそういうものよという道理など、
実体験を伴う“理解”や“把握”が、
既に刷り込まれているも同然の身となってしまったので。
そういった要領を思い出してしまってからこちらというもの、
妙に老成した、落ち着きのある存在感まで得てしまい。

 「そもそも自由参加にするべきじゃありませんか? そんな測定会なんて。」

運動方面を得意とするお人や、
外の大学へ進学するための推薦条件にある方々だけで走ればいいんですよと。
何でイヤなのかを持ち出さず、あくまでも合理的な言い分を並べるところが、
とてもじゃないが十代のお嬢様とは思えない。

 「……放っといてくださいまし。////////」

草野さんチのお嬢様、
図星を差されたからか、勢いよくもそっぽを向いた話題というのが。
12月に入ってすぐの週末に、
これもまた、こちら様の女学園では初冬の名物行事として設けられている、
長距離走計測会、またの名を“マラソン大会”という代物で。
期末考査の直前という実に慌ただしい間合いに設けられているのは、
ただ単に

 「もーりんさんが学園祭ネタで消耗し切ってたからでしょうが。」
 「え? そうなんですか?」

バラすんじゃありませんことよ、ひなげしさんたら
…じゃあなくて。
(笑)
本来、例年どおりだったならば、
11月の半ば過ぎあたりに日程が定められるイベントなのだが。
今年は、ほれ、
学園祭の最中にややこしい事件が密やかに起きたでしょうが。

 「…でしたねぇ。」
 「あの時の偽巡査って、結局捕まってないままなのでしょう?」

ひなげしさんこと平八さんが、夏休み中に描いた渾身の作品へ、
真っ赤な絵の具をぶちまけた…かのようなという、何ともややこしい悪戯をし。
しかもしかも、証拠品をまんまと彼女らの目の前から持ち去った憎い人。

 「勘兵衛殿も、何とも言って来ないのでしょう?」
 「ええまあ…。」

でも、勘兵衛様はただ居合わせたってだけで、
本来の管轄も違いますし、と。
恋人だからと庇うというのでもなくの、
それでも…七郎次が言い繕いをするのも判らぬではない。
しゃれにならない性悪な悪戯だったので、
平八も、七郎次や久蔵もまた、たいそう驚かされはしたけれど。
結果としては何という被害もなかったこと。

 何であんなことをしたのかは、是非とも問いただしたかったけれど
 不法侵入という形での被害届けを、出せなくもなかったけれど

このくらいのことで、
警察関係のどこかへ記録を残されるというのも剣呑だしと、
結局はそれも見送ってしまった彼女らであり。
なので、正式な捜査もされてはない事案だったりし。
とはいえ、
学園周辺で不審者が徘徊しておりましたという、
通報があった事実は残されてもいた関係から。
用心のための警戒として、
特別警邏シフトというのを地元の警察署がしいてくださったそうで。
そんな中で…学園の周縁とはいえ、
全生徒らが群なして走るような行事を敢行するのはいかがなものかと。
半月ほど様子見のインターバルが取られてしまっての、
本年度の開催日の遅れようだったりしたのだそうで。
そういった事情によって12月へ先送りされたその上、

 ―― 天候その他の諸事情により順延した場合、
    翌日に開催と変更す

というのが、
翌月の行事や連絡を印刷して月末に配られる、
女学園便りにもしっかと記されていたので、
翌日には予定を入れてしまったどうしましょうというのは通じない。
こたびは、この大嵐のための順延という旨が、
朝早くにそれぞれのご家庭へメールで知らされており。
ちなみに、明日の土曜に登校するのへとの差し替えか、
それとも、このとんでもない天候の中への外出もご法度としたいのか。
本日は“臨時休校”という運びになったことも、
同じメールへ添えられてはいたのだが。

 「いきなり予定変更されてもねぇ。」

小学生じゃああるまいし、こっちにだって事情ってものがあるのにと、
何だかやたらと不機嫌な様子の白百合さんであり。
今日はお休みですってと、
通知のメールとは別口、確かめ合うよにお互いへメールを出し合った3人娘。
と言われても、ならばと差し替えられる予定があるじゃなし。
暇を持て余していてもなんだからと、
皆の自宅の中間地点、久蔵お嬢様の自宅である三木邸にて集合とし、
お喋りでもいたしましょうと、お顔を合わせていた彼女らだっていうのにね。
急に登校日となってしまった明日への不満とも解釈出来る、
そんな言いようが、今更ながら飛び出したなんてことは…?

 「あらあら。
  もしかしてシチさんたら、明日は勘兵衛殿とデートの約束でも?」

それがあっさりと潰されたんで、
マラソンがますます憎いと言いたいのかしらと。
半タートルのルーズな襟元や七分袖が、
くしゃくしゃっとした加工をされた淡色カットソーにくるまれた肩、
ひょいとすくめた平八が、微妙に目許を眇めて訊いたものだから。

 「???」

お茶の支度をとメイドさんが運んで来た銀のワゴン、
お部屋の扉前で受け取った久蔵までもが、
濃灰色のニットのミニワンピにパギンスという組み合わせの室内着の上へ、
カーディガン代わりの大判カシミアストールを羽織った、
こちらさんもまた、やはり細いめの肩に触れるほど、
ひょこりと小首を傾げもって見やってくるのには
…さすがに耐え兼ねたらしい白百合さん。

 「そんなんじゃありませんよ。」

多少は憤懣もあってか、ふんと小さく鼻で息をつき、
別な生地と継いだところにシャーリングがかかってのフリルのようになった、
この秋冬に流行中の三段切り替えのミニに包まれた腿の先、
形のいいお膝を延ばすと、真白な脚を少々蓮っ葉にも組み変えて見せたものの、

 「ただ…今日は何の日でしょうかなんてメールを、
  朝イチで勘兵衛様の携帯へ出したばかりだったから。」

そんなお言いようを口にする。
さすがに、子供みたいな拗ねようだったとは思うのか、
いつも歯切れよく語る彼女にはめずらしく、
語尾が小さくなっての萎んでしまっており。
そして、

 「今日?」
 「………っ。」

そんなヒントを訊いたのへ、
あ…っと先に気づいたのが、平八ではなく久蔵の方だったのも。
ある意味 意外というか意味深と言いますか。
というのが、

 「妻の日、だ。」
 「つまぁ?」

母の日やバレンタインデーのような世界基準の記念日ではない、
日本だけの、しかも語呂合わせのそれなので。
アメリカ育ちの平八にはピンと来なかったのだろうし、
七郎次に相変わらずの感覚で懐いている久蔵にしてみれば、

 「古女房。」
 「あ、そかそか。そうでしたね。」
 「……久蔵殿、指差すのはやめてください。/////////」

今のこの年齢でそれを人から言われると、何か妙な気がしますと。
“古”というフレーズが引っ掛かったと言いたいらしい七郎次だが。
こだわったからこそ勘兵衛へそんなメールをしたくせして、
真っ赤になって言い返すところは、
女房とか妻とかいうフレーズが、今更 恥ずかしくなったに違いなく。
そんな含羞みようへ、

 “……シチ、かわいいvv”

素直にキュンとしている久蔵の傍らで、

 “利かん気なんだか、ヲトメなんだか。”

こちらさんは少々呆れてしまったのが平八で。
とはいえ…その気持ちは、痛いほど判る彼女でもあったりし。
中身が微妙におっさん、もとえ、
いい年をしていたからこその蓄積も持ち合わせる身なものだから。
大人げない言動へは、それなり、照れがないではないけれど。

  だけどでも、実年齢は十代の少女なもんだから

厚顔にも開き直れる話題…にも、
そこはやっぱり限度があると言いますか。
策を弄して大人を振り回す手際も鮮やかに、
『そんなおっかないこと判りませ〜ん』なんてな、
いかにも白々しい演技も出来ますし。
逆に“小娘だと思ってたら切ない目に遭うよ”なんてゆ、
強かな啖呵だって切れるくせにね。

  好いたらしいお人とのあれこれへまつわるものに限っては

ちょっとした揶揄や指摘へ、
そんなの聞き流せばいいと思うような軽口でも、
あるいは、本気で言ってる訳じゃないって判っていても、
随分と胸へ届きやすい質の、重みや鋭さを感じるし。
見ないでおこうとしていたことへの図星なんて差されたら、
白々しくもとぼけるなんて出来なくて。
何でだろ、ずんと挫けやすくなっていて、
ほろほろと心が綻びそうにもなるのが自分でも不思議。

 「別にまだそういう間柄じゃあありませんけれど。
  ただ、こういう洒落めかした日って、
  勘兵衛様も御存知かなぁとか思ったりしただけで…。///////」

ちなみに、4月14日の“恋人の日”にも同じようなメールを出してみたところ、
お忙しかったのか、返事もないままに放っておかれたものの。
それから数日後、逢う機会が出来てのデート中に、
そういえば…と、
クリスタル製のオレンジのチャームのついたストラップを、
メールへの詫びだとプレゼントしてくれたそうで。

 「だから、そう…お遊びみたいなもんですよう。」

我ながら子供じみたことをしちゃったかななんて、
モヘアのセーターがそれはよくお似合いの、
薄い肩をすぼめておどけた白百合さんなのへ、

 “そういう中途半端なことをするから、
  シチさんが期待するんじゃないですか。”

どうせあの佐伯さんとやらが入れ知恵したに違いないと。
ある意味、古女房代理のような気遣いを、
野暮天な勘兵衛に吹き込んでいる“黒子”の存在、
しっかと把握している平八としては。
当事者じゃあないからこその冷静さで、そんな風に断じることが出来る反面、

 ほんのささやかな風にでさえ、
 その胸の内に育った草原、大きく揺らされるのが恋心だと。

他愛ないことで舞い上がったり落ち込んだりするのだと、
自分にも当てはまることとして、ようよう判ってもいるだけに。
型通りに切って捨てるような言いようも出来ずで、

 「そうですね。
  そんな遠くもない先で、ちゃんと忘れずにいてもらうためにも、
  そういう記念日は山ほどあるんだぞって、
  今から刷り込んでおくってのは、悪い手じゃないですよね。」

 「お。」
 「もうもう、ヘイさんたらそんな言い方して。」

感心したのか ぽんと手を打ったのが、紅バラさんこと久蔵お嬢様なら、
打算的な言い方しないでくださいと、
純情ぶり子を間接的に認めてしまったのが白百合さんで。
行く末は、淑やかな花嫁経由の賢い妻か、
はたまた夫を尻に敷く、頼もしきかな山の神か。
どちらさんも、どっちにもなれそうな素養は十分のお嬢様がた。
自分の先へはちょっぴり甘ぁい夢を見ながらも、
隣りのお友達へはシビアな見解、向けられもするのが、
現金なんだか頼もしいのだか。

 久蔵殿は兵庫せんせえのお手伝いをするよな進路を選ぶの?
 え? 好きなことをしなさいと言われてる?

 あのお人にも、一度しっかりすっぱり言ってやらねばですよね。

 でもねぇ、
 先だってにも随分と的外れな感慨しか聞けませんでしたしねぇ。

 ??? (先だって?)

 あ、あああ、いやいや…えっとあの。

 何でもありませんよ、久蔵殿。
 そう、インフルエンザの予防接種に来なさいと、
 3人揃って、先だって言われたじゃないですか。

  “……シチさんて、
   勘兵衛殿がからまない話だと見事に緩急自在だなぁ。”

  まったくです。
(笑)





   〜どさくさ・どっとはらい〜  10.12.03.


   *何だかダラダラしたお話ですいません。
    妻の日のお話、
    どのCPで書いたものかと迷ったあげくが この体たらくです。

    ちなみに、12月3日というのは“ワイフ(妻)サンキュウ”だそうで、
    1月31日の“愛妻の日”はそのまま“あい(I)さい”だそうですよ。

ご感想は こちらへvv めーるふぉーむvv

ご感想はこちらvv(拍手レスもこちら)


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